第26話

定時は18時。

残業は殆どないのが、せめてもの救いだ。


着替えを済ませ、会社の外に出ると、やっとちゃんと呼吸が出来る。

駅へ歩き出そうとすると。


「お疲れ様でした」


いきなり椿が現れた。

咄嗟に周りを見渡すが、幸い人気はなかった。


「お、お疲れ。

 急に現れんなよ、誰かに見られたらどうすんのさ」


「そこはキチンと、周りを見てから現れてるのでご安心を。

 ところで、今日の夕飯は何がいいですか?」


「飯かあ…。

 腹は減ってるけど、食欲はないと言うか」


疲れた顔をしながら、そう言う蓮を椿は見る。


「元気ないですね。

 あの嫌味ババアのせいですか?」


「ご名答。

 最近のストレスの原因は、全部お局のせいだよ」


椿も蓮がお局に目を付けられているのは、以前から知っている。

目を付けられた原因までは知らないが。


「あのババア、本当にムカつきますね。

 蓮はちゃんと仕事をしてるのに、近くにいた人とねちねちと悪口を言ったり、文句を言ったり。

 見ていて腹が立ちました」


「ん~、そうなんだけどねえ。

 まあ、その内いじめんのも飽きるんじゃん?」


時間が過ぎれば、いじめが止むといいが、そうはいかないだろう。

たとえ自分へのいじめがなくなっても、他の人へのいじめがなくなる事はない。

同じ事の繰り返しだ。


「考えると、めんどいなあ」


歩きながら、どうしたもんかと考えるも、明確な答えなんて出てくる筈はない。


「転職とか考えてないんですか?」


「考えてるけど、いいとこ見つからんのよ。

 世知辛いよなあ」


駅が近付くにつれて、人の数も増えてくる。

よく見る、当たり前の景色。


「とりあえず、夕飯は食べないと。

 蓮の好きなの作りますから。

 何が食べたいですか?」


「食べなきゃ駄目?」


「あたしは少しでも食べてほしいですね」


「…じゃあ、オムライス」


「随分可愛い料理のリクエストですね」


椿はクスっと笑う。


「よし、じゃあ地元に戻ったらちゃっちゃか買い物して、お家に帰りましょう」


椿の笑った顔を見て、蓮はふっと笑った。


「神様って元気いっぱいだね」


「全神様が、あたしみたいな感じではないですけどね。

 人間と同じで、いろんな性格の方がいますよ」


ふ~んと空返事をしながら、2人は夕方の駅を急いだ。

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