第25話

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうのに。



仕事の時間は、どうしてあっという間に過ぎてくれないのだろう。


そんな事を思いながら、蓮は作業を続ける。

単調で淡白な作業だ。

レーンに乗って流れてくる商品を、手早く目視検品をして戻すだけ。

今日の担当場所は、他の場所よりも飽きやすくて眠い。




金がなければ生きてはいけない。

社員で入れたのは、運が良かったと思っている。


けれど、仕事はなかなか雑務が多い。

穴埋め要因として、製造部のあちこちをたらい回しにされている。

金を貰ってるから文句は言えないが、言えない変わりに溜め息は増えていく。


前はもっと、ちゃんとした仕事をさせてもらえていた。

だが、とある事が切っ掛けで、させてもらえなくなってしまった。


この会社に勤めて2年になるが、半年くらい前までは、それなりにやっていたのに。



「水野さん、さっさとやってよね~」


フロアリーダーの中田が、嫌みたらしく言ってくる。

フロアリーダーであり、パート陣のボスだ。

所謂『お局』というやつで。


少しでも反論すれば、倍の嫌がらせが待っている。

誰も逆らわないし、逆らう事さえ出来ない。

蓮がこうしてあたられていても、周りにいる人達は、解っていても知らないふりをするだけ。

誰も皆、我関せずというやつだ。


キチンとやっていても、お構い無しにいちゃもんをつけてくる。

言い返そうものなら、すぐに上の人間にある事ない事を言うから厄介である。


蓮が担当している場所にわざわざやって来ては、隣でねちねちと文句を言う。

あまりにも五月蝿いから、ある時耳栓を付けて作業をしていたら、『許可していないものを持ち込むな』と、お局に奪われた。


課長に相談をした事があったが、関わりたくないという気持ちが顔に出ていた。

当たり障りのない笑顔で、『仲良くやってね、気に掛けてくれてるんだよ』

少しでもあてにした、自分が馬鹿だったと、蓮は心の中で舌打ちをした。


転職も考えてはいるが、あと1年勤めないと微々たる退職金が出ない。

有給も結構残っている。

そして、こんなご時世も手伝って、いい転職先も見つからない。


『仕事は選ぶな』なんて聞くが、選ぶ権利はある。

何より、同じ轍は踏みたくない。


お局が去ると、禍々しい空気が幾分ましになった。

壁の時計を見ると、やっと10時を過ぎた頃だった。


本日2度目の溜め息。

終了時刻まで、まだまだ遠い。

諦めて作業に集中する事にした蓮だった。

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