第24話

「何そんなに驚いてるんですか?

 そんなにイヤらしい事を考えてたんですか?」


「ちっげ~わ!

 あんたはどっから現れたんだよ!?」


「ピアスですよ。

 空間が繋がってるから、ひょいっと現れる事が出来るのですっ」


得意げに言う椿のテンションに、やや押されてしまった蓮だったが、とりあえずバクバクする心臓を落ち着かせる事に専念した。


「頭の処理が追い付かんわ」


大きく息を吐き、大分落ち着いてきた胸を押さえる。


「ほら、なんてったって神様ですから、何でも出来ちゃうんですって」


「何でも出来るなら、その素っ頓狂な頭の中を何とかしろよ」


「んだとこらぁっ!」


朝っぱらから元気だな。

その元気は、一体何処からくるのだろうと、しみじみ感心したくなる蓮。


「てか、なんであんたはついてきてんさ」


「あたしはいつだって、蓮の傍にいますよ?」


口説き文句かよ。

心の中でツッコミを入れてばかりだ。


「理由をもっと詳しく、簡潔に」


「契約者のお傍で、見守るのがお仕事ですので」


「…そのまま会社にまでついてくるんか?

 入れんぞ?」


「蓮が仕事をしてる間は、あたしはピアスの中にいますから。

 ほら、ピアスはあたしのお部屋ですので。

 蓮が仕事してる間は、録り溜めたアニメを観ながら時間を潰すつもりです」


「…見守ってねえじゃん」


「だ~いじょうぶですって、ちゃんと見守ってますから。

 あたしが傍にいれば、不安要素なんてバイバイキンですよ」


「…あっそ」


ツッコミを入れる気も失せた蓮は、またしても大きく息を吐き、何かを諦めたのか、何も言わなかった。

椿はそんな蓮を、クスっと笑う。


「あたしが傍にいるの、嫌ですか?」


陽の光が、椿の黒い髪を、顔を照らす。

白い肌が光って、より綺麗に見える。


「……べっつに」


嫌ではない。

ただ。


「五月蠅く…煩くしないでもらえたら嬉しいんだがね」


「あたしがしおらしく、大人しくなっちゃったら、きっと刺激が足らなくてつまらなくなっちゃいますよ?」


「つまんなくなってみてえもんだ」


もうすぐ駅が見えてくる。


「あ、満員電車はまじ勘弁ですので、ピアスの中に逃げま~す。

 お仕事、頑張って下さいね」


そう言うと、椿の体は煙のように揺らいだかと思うと、すぐに消え去った。

駅までの僅かな時間で、滅茶苦茶体力を消耗した気がする。

そんな状況で、満員電車に乗らなくてはいけないなんて。


「ちっきしょう、私だって満員電車なんか乗りたかねっての」


独り言を呟きながら、駅の出入口に向かう蓮だった。

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