第23話

仕度が終わり、時計を見るとそろそろ家を出る時間だ。

仕事用のリュックを持ち、立ち上がると。


「蓮、お弁当です」


気付いた椿がパタパタと台所に向かうと、冷蔵庫からタッパーを取り出した。


「ランチバッグも、お弁当を包むバンダナみたいなのも無いんですね。

 今日はそこまで暑くないから、紙袋で持ち運んで大丈夫だと思いますが。

 100均で色々買って来なきゃ」


差し出されたタッパーを、驚いた顔をしながら受け取った蓮。


「え、弁当まで作ってくれたん?」


「作りましたよ。

 あ、ご迷惑でしたか?」


「いや、その、助かる」


昼食は会社で頼んだ弁当を食べていたが、不味くも美味くもない。

かと言って、外に食べに行くのも面倒だったし、コンビニやスーパーの弁当は飽きる。

カップ麺類は以ての外だ。


「好き嫌いがあったら、ちゃんと言って下さいね。

 食事は生きる為に必要な事だから、疎かにしちゃ駄目ですからね。

 ほら、そろそろ家を出なきゃでしょ」


促され、玄関へと向かうと。


「あ、そうだ。

 これ、ちゃんと身に着けて下さいね」


椿が差し出したのは、小ぶりの十字架のピアスだ。

ネックレスは目立つから、ピアスに変えてもらったのを忘れていた。


「へいへい」


以前、左耳に穴を開けてピアスを付けていたが、面倒になってしなくなった。

穴が塞がっていないか心配だったが、ちゃんと貫通したし、ピアスを嵌める事が出来た。


「あたしは部屋の掃除と、洗い物をしてから家を出ますね。

 じゃあ、行ってらっしゃい」



おかんかよ。

喉まで出掛かりかけた言葉を飲み、行ってきますの言葉で誤魔化して玄関を出た。


マンションを出ると、春の陽射しが蓮を優しく照らす。

すっかり目覚めた頭はすっきりしていて、心なしか気分もいい。


駅までは、歩いて15分くらいだ。

余裕があるから、ちょっとのんびり歩いても、十分間に合う。


家に誰かがいて、世話をやいてくれて。

至れり尽くせりとは、まさにこの事だろうと、蓮は深く納得する。


しかし、仮にも神らしいが、そんな人物にそんな事をさせていいのか心配にもなる。

何から何までやってもらいっぱなしで、何だか申し訳ない気がする。


自分でやらなきゃな。

と、思うものの、やる気が起きないのも否めない。

もう少し、姿勢を正さなきゃな、なんて事を思いながら歩いていると。


「深刻な顔をしながら、何考えてるんでるすか?

 破廉恥な事?」


いきなり声がしたもんだから、蓮は思わず大きな声を出した。


「ちょっ、あ、へっ!?

 ど、どっから現れたんだよ!?」


どぎまぎしまくっている事もあり、蓮はろれつが上手く回らない。

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