第22話

顔を洗い、歯磨きを済ませ、リビングに戻ると、テーブルには朝食が乗っていた。

ご飯、ハムエッグ、味噌汁、納豆。

こんなキチンとした朝食なんて、いつぶりだろうか。


「冷めない内に召し上がれ」


言いながら、椿は蓮のベッドに無造作に転がる掛け布団を持ち上げると、そのままベランダへと向かうと干した。

今日も申し分なく、太陽は眩しく世界を照らしている。


テレビをつけてから、用意された朝食を食べ始める蓮。

米の炊き具合も、味噌汁の味付けも丁度いい。

昨夜もそうだが、作ってくれた料理は美味かった。


「しょっぱくないですか?」


布団を干し、枕を干し終わった椿がエプロンを外しながら台所に戻る。


「…うん、大丈夫」


何もしなくてもご飯が出て来る。

これはとてもありがたい。

(いつもなら、コンビニで買っておいたおにぎりを、もさもさ食べるだけなのだが)


「あたしはお茶を飲むけど、蓮は何飲みます?」


「じゃあ、ブラックコーヒー」


食べていると、椿がマグカップとお椀を持ってきた。

マグカップにはコーヒーが。

お椀には…お茶?


蓮が不思議そうな顔をしていると。


「この家にはマグカップは2つないんですね」


不服そうな顔をしながら、椿はずずっとお茶を飲む。


「いや、あるって…あ、前割っちゃったんだっけ」


落として割った事を、すっかり忘れていた。

来客は滅多に来ない為、そういう事に疎くなる。


「お椀でお茶を飲むなんて、いつぶりだか」


「前はお茶はお椀で飲んでたん?」


「そういう時もありましたって話です。

 マグカップ、後で買いに行かないと」


椿の話を聞き、首を傾げるも、残っていた料理を食べきった。


「ごっちょさまでした」


「お粗末様でした。

 洗い物は後でまとめてするんで、台所に置いておいて下さい」


重ね重ねおかんだな。

言い掛けたが、怒りそうな気がしたからやめた蓮は、そのまま台所で煙草を吸う。


換気扇をつけ、まだ眠い目蓋を擦る。

大きく煙を吸い込み、ゆっくり吐きながら、テレビを観ている椿を見てみる。


神と言われても、見てくれは完璧に人間そのものだ。

体内には、血は流れているのだろうか。

排便はすると言ってたし、基本的には人間と同じなのだろうか?


「ねえ、神様」


「はい?」


呼ばれて蓮を見る椿。

…喋らなければ、絶世の美人なんだがなあと思いつつ、その言葉は飲み込む。


「あんたはご飯食べないの?」


「蓮が起きる前に、食べちゃったので。

 あ、一緒に食べたかったですか?」


「そうじゃねえっての。

 昨日の夜も、私に食わせて自分は食わなかったからさ」


「あら、心配してくれてるんですか?

 優しいところ、あるんですね」


「…心配して損した」


むむむっという表情をしながら、蓮は吸い終わった煙草を灰皿に捨てた。


さて、そろそろ出かける仕度すっかな。

欠伸をしながら、クローゼットの扉を開ける。

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