いきなり始まった同居生活に慣れるのか、どうか

第21話

意識の遠くの方から、音…というか、音楽が聞こえてくる。

いつも鳴る、携帯のアラームの音とは違うな。

朧げながら、蓮はそんな事を思う。


この音楽、聞いた事があるな。

こう、聞き慣れたものというか。

毎週見聞きしていたけど、大人になるにつれて観るのが嫌になったというか。


ぼんやりと目蓋を開けてみる。

まだはっきりとしない意識に、その音楽は耳から流れ込んでくる。




この音楽…




ガバッと上半身を起こし、携帯を見てみる。

サザエさんのエンディングが、YouTubeから流れていた。

こんなんアラームに設定してない。

じゃあ、誰が?

言うまでもないのだが…。


「あ、起きましたか?

 おはようございます」


「おはようごぜえます、自称・神。

 何でアラームが鳴んないで、サザエさんのエンディングが流れてんだよ!」


「自称じゃなく、ちゃんと神ですよ!」


「うるっせえ、見習いのくせに!

 んな事より、何でサザエさんを流したのかを聞いてんだよ!」


「蓮が自分で設定したアラームは鳴ったのですが、蓮は寝ぼけてアラームを消して寝ちゃったんです。

 このままじゃ遅刻しちゃうから、一か八かでサザエさんを流してみたんですよ。

 そしたら効果は抜群ですね!

 ばっちりすっきり起きてくれました」


台所からこちらを見ながら、自信満々に親指を立てる椿に、朝っぱらから苛立ちを覚える。


「よりによってサザエさんはないだろ!?

 週が明けたのに、またサザエさんを聞く羽目になるとか、どんだけ残酷なんだよ!」


「結果的に起床出来たんだからいいじゃないですか。

 朝からそんなにプリプリ怒ってたら、仕事中にばてちゃいますよ?」


「誰のせいだ、誰の!」


目覚めてからまだ1分経ったかそこらなのに、既に疲れている。

ただでさえ、今日から仕事で陰鬱だというのに。


「あ~も~…」


こめかみを押さえてからベッドから出た蓮は、後頭部をぼりぼりと掻きながら洗面台へ。


「さっさと顔洗っちゃって下さいね。

 朝ご飯はもう出来てますから」


蓮はそれには返事をしなかった。


自称・神様がエプロンを着けて、朝ご飯を作る光景なんて、長い人生でもお目にかかる事はまずないだろう。

それが今、自身に起こっているのだから、どんな反応をするのが正解かは解らない。


神様と同棲…いや、同居?

向こうが勝手に住み着いたという方が正しい気もする。


うら若き女性と、ひとつ屋根の下で生活する事になったのに、思った事は。



「……つか、おかんかよ」

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