第20話

何て目まぐるしい日だろう。


目が覚めたら、自分の布団の中でこの世の何処を探してもいないであろう美人が寝ていて。

彼女は起きたら、私の事を『ご主人様』と呼んだ。

そして、自身の事を『福の神』だと言った。


夢なら覚めてくれ。

その願いも虚しく、全ては現実であった。

何を信じればいいのか、解らなくなる。


眩暈がする頭を押さえても、状況は忙しく動いていく。

人々の生活を見つつ、私を幸せにする為に私の傍にいる、と。

選ばれた人間だから、拒否権はないと。

端からしたら、軽い脅迫ではないだろうか。


掌から契約書、ペン、スマホを出したり、髪色や瞳の色も自由に変えたり。

慣れた手つきで、スマホを使っていたり。


意外と家庭的なのか、家事もこなせるとは。

そして、最後にオタクときたもんだ。

何かもう、自分の中にあった神様像が、一気にぶっ壊れた。

いや、正確には『ぶっ壊された』と言った方が正しいな。


世の中の何割の人が神様を信じ、崇拝しているかは知らない。

知る気もない。

そんな方々に、この神様を見せたら、どんな反応をするのか是非見てみたいものだ。




明日からの私の生活は、暮らしはどうなってしまうのだろう。

期待と不安を天秤にかければ、間違いなく不安に偏る。

悪さをする予定はないけれど、反する事をしたら天罰でも喰らうのだろうか。

…これ以上、不安が増すような事はあってほしくない。


ベッドから出て、立ち上がる。

ふと足元を見れば、綺麗に畳まれた洗濯物。

ベランダの方を見ると、茜色の空が広がっていた。


誰かと一緒の生活を、またするなんて思ってもいなかった。

休みの日なんて一言も喋らず、適当に時間を潰し、終わるだけだったのに。

そんな日が、遠い事のように思えてくる。



「蓮~、突っ立ってないで、さっさと風呂の用意をして入っちゃって下さいね。

 あたしは夕飯の用意をしますから~」



頼んでもいないのに、勝手に夕飯の準備を始める神様。

私は気怠い返事をしながら、風呂場へ向かった。




いきなり始まった…いや、勝手に始められてしまった『新しい日々』

想像出来ない騒々しい日々に、なるのは火を見るよりも明らかで…。





















神様との共同生活が、今日、ここから始まる。

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