第18話

コホンと咳ばらいをした椿は。


「ただし、徳を積まなくても1つだけ願いを叶えてあげます。

 ですが、条件はあります。

 1:人殺しは禁止

 2:亡くなった者を生き返らせるのも禁止

 3:地球を滅ぼすのも禁止

 理(ことわり)を崩すような願いはNGですのであしからず」


「過去にその3つの内、どれかを叶えろって言った奴いんの?」


「ひょんな事から競馬にハマり、絶対に当たると大穴狙って全財産ぶっ込み、見事に惨敗した方が、『生きていけないから地球を破壊しろ』と言ってきた事はありましたね。

 規約違反だし、働こうともしなかったんで、あたしとの契約は打ち切られましたが」


「なんて愚かな…。

 まあ、1と2は言ってきそうな奴はいそうだが。

 どんな願いも叶えてくれるかあ」


両腕を上に伸ばしながら、蓮は天井を仰ぐ。


「べっつに叶えてほしい事とかないや」


「何か1個くらいあるでしょう?

 大金持ちになりたいとか、お姉ちゃんのパンティをおくれとか」


「私はドラゴンボールのウーロンか!?

 死ぬまで食うに困らない大金持ちになったとしても、地味に働きはするだろうなあ。

 欲しいもんもないし」


「見かけによらず、欲がないんですね」


「見かけによらずって、どういう事だよ!?

 ちょいちょい失礼だな、おい!」


伸ばした腕を下げ、息を吐く蓮。


「てか、徳を積むって何すんのよ?」


「普通に日常生活を送る事です。

 働く事、生きる事、犯罪を犯さない事。

 これらも徳を積む事ですので」


「ふ~ん、そんなもんなのね」


修行でもさせられるのかと思っていた蓮だったが、あてが外れて拍子抜けだ。


「1個だけ叶えてほしい願いは、いつお願いしても構いませんから、頭の片隅にでも入れて気長に考えておいて下さい。

 あと、他に質問とか、何か解らない事はございますか?」


ベッドに移り、寝転がりながら椿の話を聞いていた蓮は、う~むと考えてる。

目蓋が重くなってきたが、何とか眠気と戦う事にしてみる。


「そうさなあ…」


言いながら、少しずつ目蓋が閉じてきてしまう。

満腹感が強い状態で横になれば、自ずと眠気も強くなる。


「何でもいいですよ」


ニコっと微笑む椿の姿が、ぼんやりとしてくる。

駄目だ、眠気に勝てそうにない。


「神様は…」


言葉は途切れ途切れ。


「はい?

 てか、蓮寝てません?」


上手く聞き取れなかった椿は、蓮の口元に顔を近付ける。



「神様は、うんこ、するん?」




そのまま事切れた蓮は夢の中へ旅立った。




「うんこもおしっこもしますわい!

 おい、こら寝るな!

 起きろ!」


肩を掴んで揺さぶってみたが、それが何の意味を持たないと悟った椿は、大きな溜め息を吐くと蓮に布団を掛けた。



「な~んか、今までの人間の中で、初めてのタイプの人間かも」

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