第12話

「ご丁寧なご説明をありがとう。

 契約なんてしないから帰れ」


「だ~から、貴女は選ばれたんだから、避けて通る事は出来ないんですってば。

 大人しく契約書にサイン下さい。

 そうすれば、これからの日々が素敵な薔薇色に生まれ変われますよ!」


「うっわ、畳み掛けるように胡散臭さが増したな!?」


とりあえず、この状況をどうしたらいいのだろう。

どうしたら、こいつは帰ってくれるんだろう。

次から次へと問題が生まれていき、悩みの種は増えていくばかりだ。


…幸せなんて望んでいない。

誰かに幸せにしてもらおうなんて、これっぽっちも思っちゃいない。


「…そんな深刻に悩まないで下さい。

 何も貴女の人生を乗っ取ろうとか、壊そうとか、そんな事は微塵も考えていません。

 純粋に貴女が幸せな人生を送ってほしいと、ただ願い思っているだけなんです」


この人が嘘を言っていないのは、何となく解ったつもりだ。

けど、やっぱり…。


「自分のキャリアの事も考えていない訳ではないですが、選ばれた方の幸福を願うのは無論です。

 出来る事ならば、幸多い人生を歩んでほしい。

 今は安心材料が少なく、不安も多いと思いますが、どうかあたしを信じて下さい」


真剣な顔で言われ、心はやや揺らぐ蓮。

どう返したらいいのか解らなくて、ただただ口を紡ぐばかりで。




「あたしが貴女の事、

 幸せにします」




最高級の殺し文句だ。

と、いうより。




「なんだよそりゃ、プロポーズみたいじゃん」




笑ったのは、蓮の方だった。


そんな言い方は狡いじゃないか。

試したくなってしまうのは、本気か悪戯心からか。


「解った、解ったよ。

 そこまで口説かれて、断るのは癪だよな」


蓮は参りましたという表情を浮かべながら、両の掌を女性に向け、降参の意を示した。


「そんなに言うなら、幸せにしてもらおうじゃん」


不敵にも似た笑みを浮かべながら。


「お望み通り、ご主人様とやらになってあげるよ」


気取った口調で。


「ありがとうございます、ご主人様(仮)!」


「その『ご主人様(仮)』っての、やめてくれ」


クスクスと笑うと。


「ご主人様、笑うと可愛いですね」


そんな事を言われるもんだから、今度は恥ずかしくなり顔を赤める。


「か、からかうんじゃねえし」


「からかってませんよ、本心です」


そう言って、女性は楽しそうに微笑んだ。

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