第9話

折角の休みなのに、のんびり過ごそうと思っていたのに。


「てか、どっから入ったんだよ。

 普通に不法侵入じゃんか。

 それに何で裸で私のベッドで寝てたんだよ」


「あたしはご主人様(仮)とご一緒に、お部屋に参りましたわ。

 裸で寝てたのは、寝る時は裸派ですので」


違う、何か違う。

思っていた答えとは程遠い答えが、直球でぶつけられてしまい、蓮は再び大きな溜め息を吐く。


「私は昨日は素面だったし、あんたをお持ち帰りした事もなければ、部屋に招き入れた覚えもないんだが。

 あと、あんたが裸族なのは、横に置いておく」


間違えた説明をしてないのにな、とでも言いたげな顔をした女性は、何かを思い出したような顔になった。


「十字架、拾って下さったじゃないですか。

 あの十字架は、あたしの住処なんです」


あかん、まともな会話を期待した自分が馬鹿だった。

蓮は枕のところに置きっぱなしだった携帯を取ると、無言で操作を始める。


「お電話ですか?

 席を外した方がよろしいですか?」


「そこにいてくれ。

 とりあえず、警察に電話すっから」


「ちょちょちょっ、お待ち下さい!

 何で警察にお電話するんですか!?」


「さっきから虚言ばかりで、まともな会話にならんからだろ!

 宗教の勧誘なら、他を当たってくれ!」


煙草を灰皿に捨てた蓮は、立ち上がりその場を去ろうとする。

そんな蓮の腰に飛び付き、2人はもつれながらラグに倒れ込む。


「いてぇ…」


倒れた拍子に、軽く頭を打ってしまった。

閉じた目蓋をゆっくり開けると、困り顔の女性が蓮を見つめている。


「ご主人様(仮)、お怪我はありませんか?」


彼女のたわわな胸が、蓮の胸にむぎゅっと当たる。

朝から破廉恥な事を考えてしまった蓮は、小恥ずかしくなり顔を反らした。


「だ、大丈夫だから」


起き上がると、彼女は蓮の頭を優しく撫でる。


「痛いところはございませんか?」


そんな心配そうな顔をすんなよ。

言わずに飲み込んだ。


「…ございません、大丈夫」


体を起こすと、携帯をテーブルに置いた。


「あ~も~、何なんだよ。

 さっぱり掴めねえ。

 十字架が住処って、冗談も休み休み言えって。

 物理的に無理だし、てか、どうやったって無理だろ」


「と、申されましても事実ですし。

 あ、じゃあ、お見せしましょうか?」


そう言うと、女性の体が煙のように薄くなった。

かと思うと、十字架の真ん中にある、宝石みたいな小さな石の中に吸い込まれていった。

一瞬の出来事に、いよいよ怖さが体中を駆け巡る。


『ご主人様(仮)~、これで信じていただけましたか~?』


十字架から声がする。

十字架を手に取ると、そっと耳に当ててみる。

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