いきなり信じろって方が無理だろ

第8話

今まで見てきた女性の中で、誰よりも綺麗だと思った。

誰もが憧れるであろう、焦がれるであろう美貌。

ハリウッド女優だって、思わず舌を巻くのではないか。

慌ただしい状況の中、そんな事を考える蓮だった。


「…てか、ご主人様って何だよ!?」


間が空いてしまったが、思い出してツッコミを入れる。


「ご主人様はご主人様ですわ。

 まあ、まだ正式に契約をしていないので、ご主人様(仮)ですが」


「ご主人様だとか、契約だとか、福の神とか、色々一気に言われても、理解が追い付かないから!」


いや、それよりも。


「まずは服を着ろ!」


「女性の裸体はお好みではありませんでしたか?」


「そういう事は今はどうでもいいら、とにかく服を着ろって!」


目の前の痴女…いや、裸の女性を押し退けると、蓮は急いでクローゼットを開けると、適当なTシャツを取り出し、女性に投げた。

いや、正確には、勢い余って投げ付けた形だ。


Tシャツを受け取った女性は、首を傾げながらもシャツに袖を通した。

女性には少し大きかったのか、下半身も隠れた。


蓮はベッドに戻らず、台所に向かうと、煙草と灰皿を持って戻ってきた。

ベッドに座ったままの女性と向き合う形でラグに腰を下ろし、煙草に火をつけた。

大きく煙を吸い込み、乱雑に吐き出してみても、この状況は何も変わりない。


「……もう1度、始めからよろしく頼む」


ぼそりと言った蓮の言葉を聞いた女性は、ベッドを下りると蓮の真正面にちょこんと座り、先程と同じように三本指をつきながら頭を下げた。


「あたしは『福の神』

 貴女を幸せにする為にやってきました」


「…ストップ」


蓮は煙草を指に挟んだ手を、彼女の前に出して静止する。


「『福の神』?」


「はい、福の神です」


そう言って、彼女は微笑む。

蓮は大きな溜め息を吐くと。


「…宗教なら間に合ってます。

 玄関はあちらです、お引き取り下さい」


あからさまに嫌そうな顔をしながら言った蓮を、女性は驚きの表情で見る。


「えっ、あたし、何か変な事言いました?」


「言ったじゃんか!

 自分の事を福の神なんて言う危ない女、30年生きてきた中で初めて見たわ!」


「ご主人様(仮)の『初めて』、奪っちゃいましたね」


「頬を赤めながら言うな!

 意味合いが違い過ぎる!

 てか、さっさとお帰りやがれよ!」

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