第2話

電車を降りて、家の帰路を辿る。

途中、コンビニで酒とつまみも買って。


季節は春も半ば。

夜風が気持ちのいい季節。

のんびりと歩きながら、家を目指す。


家の近所の公園に差し掛かれば、綺麗に咲き誇る桜が花びらを散らしていた。

風に舞う花弁は、夜の闇でさえ綺麗に彩るようで。


あともう少しで家だ。

仕事の後だし、体を重ねた後だし、疲れも遅れてやって来る。

帰ったら、まず風呂に入ろう。


古くて安いマンションに到着。

駅から少し離れているが、スーパーやコインランドリーが近くにあるから気に入っている。


出入口に向かおうとすると、靴の先に何かが当たった。

視線を下げて見ると、足元にシルバーのチェーンがついた、シルバーの十字架が落ちていた。


誰かの落とし物だろうか。

拾い上げてから、周りを見るも人の気配はない。


どうすっか。

交番に届けなきゃだよな。

けど、また駅の方に戻るのは面倒くさい。

…来週、仕事に行く前に届ければいっか。

拾った十字架を持って、部屋へ向かった。


ドアの鍵を開けて、靴を脱いで部屋に上がり、手探りで壁にある照明のスイッチを押せば、無機質な部屋に灯りがつく。

コンビニで買った物を冷蔵庫にしまい、風呂の用意をし、灰皿と煙草を持ってベランダへ。


煙を吐き出せば、緩やかな風が煙を舞わす。

暗い夜空に、白い線が浮かんで静かに消えた。

その儚さが、何となく好きだ。


静かな夜。

何もない時間。

いつもと変わらない一時。




つまらない日々




同じ事の繰り返し。

隙間を埋めたくなれば、今日みたいに見知らぬ誰かと時間を共にするだけ。


付き合っている人はいない。

結婚も考えていない。

そんなもの、自分には『不要』だ。

縁なんて、なくていい。


吸い終わった煙草を灰皿に捨て、部屋に戻ると灰皿を台所に戻した。

クローゼットから着替えを取り出すと、タイミングよく風呂が沸いた。

風呂場に向かい、纏っていた服を洗濯機に放り込む。


洗面台の鏡に映った自分を見て、舌打ちを1つ。

鎖骨の辺りに、小さなキスマークがあった。

痕を残されるのは好きじゃないのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る