第97話

どうしてこの男は私の家がある方角までも熟知しているのだ。




市立南青雹中学校前駅を中心にして複雑な住宅街が存在しているというのに、昴晴先輩は迷う素振りをまるで見せずに一本の道を先頭で入った。



とても偶然とは思えない。何故なら相手が昴晴先輩だからだ。それ以外の理由はない。




「田舎だね。」


「霰は生まれも育ちも高校の近くだものね。」




オブラートに包む事無く実に素直な感想を述べた霰先輩に、昴晴先輩が聞き捨てならない台詞を淡々と吐いた。



霰先輩の地元が高校の近くだと?


あの辺りは高級住宅街しかないという情報は、いくらこんな田舎出身の私であろうと知っている。




「僕もだけど次曇もだよ、幼稚園から同じ。」


「え、そうなんですか!?!?」




昴晴先輩と雷知先輩が幼馴染だという事実以上に驚くべき発言に、目玉が転げ落ちそうになった。


思わず聞き返してしまった私に対し、霰先輩がこれでもかというまでに瞳を輝かせている。何故。




「時雨、僕に興味があるの?」


「そういう意味じゃ…「僕の家、高校の裏にあるマンションだからここに帰りたくない日はいつでも泊まって。」」


「そんな日ないですよ。」


「じゃあ毎週金曜日泊まって?時雨の脚に絡まれて眠りたい。」


「お断りします。」




脚に絡まれて眠りたいだなんて狂言を甘いマスクで放つのだから、霰先輩は頭が可笑しい。ついでに言うと非常に残念である。


残念という点においては、性吐会の人間全員に当て嵌まるか。

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