第87話

困る。大変に困る。



霰先輩と土日まで会うようになったら、それこそ一週間毎日顔を合わせる事になるではないか。学校よりもしんどい案件だ。


土日祝祭日の怠惰な生活だけは死守したい構えの私は、どうはぐらかそうかと慌てて作戦を練る。




「えっと…「南青雹みなみせいひょう市出身なんだよね?時雨ちゃん?」」




だから貴方は一体何処からその確か過ぎる情報を貰い受けているのだ。


あからさまに誤魔化そうと目論んでいた己の声は見事に妨害され、邪魔をした犯人はあっさりと私の隠蔽しようとしていた情報をその場に曝した。



何なの?昴晴先輩ってもしかしなくても私に何らかの強烈な恨みでも抱いているの?それとも親の仇とか?



信頼感の厚い笑みを全く消さず、ずっとニコニコと口角を上げているから尚更私の恐怖心を煽り立てる。




「南青雹市?何か聞いた事ある。」


「俺もだ。」



首を横に捻り、怪訝な顔でおおよそ頭の隅の隅にあるその単語に関連する事を思い出そうとしているであろう霰先輩。本当に黙っていれば美しい人だ。


カナちゃんに触れていた手を止め、同じく考え込んでいる仕草を見せる次曇先輩。本当に黙っていればハンサムな人だ。




「てゆーか、南青雹市って言ったらCOLORsの出身地じゃなーい?」




永遠に答えが出そうにない空気を打ち消したのは、呑気にきんぴらごぼうを咀嚼している雷知先輩だった。

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