第74話
現段階では歯が立たないと理解した私は、これ以上の反抗を辞して頬を僅かに膨らませた。せめて不服であるという意思表示だけはしておこうと思った末の表情だった。
「昴晴先輩は意地悪ですね。」
「可笑しい冗談だね、僕より優しい人間なんて存在しないよ。」
本気でそう思っているのならとんだ節穴である。
「例えば今だって、不良のレッテルを貼られて省かれている時雨ちゃんをこうして招待しているでしょう?」
「頼んでませんよ。」
というより、不良のレッテルを貼られた原因そのものが昴晴先輩にある。
随分と都合の良い解釈を披露している相手は、照れなくても良いのにと漏らしながら私の頬を指先で突いた。
何処をどう見たら照れているように映るのだ。やはりこの人の目は相当な節穴の様だ。角膜でも網膜でも早急に取り替えて欲しい。
「時雨ちゃんは性吐会に入る運命だったんだよ、さっさと抵抗は止めて僕達と自由で愉快な高校生活を謳歌しようよ。」
「昴晴先輩達は平気なんですか?」
「ん?何が?」
「自由と愉快を得る代償として、不良のレッテルを貼られて浮いた存在になる。それでも平気なんですか?」
「平気だよ。僕の事を知ってくれている性吐会の人さえいれば十分だもの。他人の目を気にして、自分が浮かない様に気を遣ってしたくもない事をする方が何倍も苦痛だからね。」
長くて曲線を描く睫毛に縁取られた目を細めた昴晴先輩は、躊躇する素振りを一つも見せずに断言した。
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