第75話

「時雨ちゃんも、そう想っている人間なんじゃない?」


「え。」




不意を突いて投げられた質問に、私は何も答えられず戸惑った。



相手と絡み合った視線が、解けてくれない。


昴晴先輩と視線が重なると、どういう訳か逸らす事ができないのだ。




澄んだ硝子の様に美しい瞳に見惚れているからなのだろうか。


相手の優艶な顔に目を奪われてしまうからなのだろうか。




それとも、自らの心の奥底を見透かされている気がしてならないからなのだろうか。




「僕には時雨ちゃんがここにいる人間と同じ様に見えたんだけどな。」


「…見当違いですね。」


「そうでもないよ。」




私にしか分からない程度に震えている己の声とは対照的に、昴晴先輩の声は自信がみなぎっていた。



閉口する私。


口角を持ち上げる昴晴先輩。




「やっぱり時雨の脚、舐めたい。」



横から耳を突く危うい発言は聞き流そう。


私の肩に頭を乗せて物欲しげに脚を見つめている霰先輩は、この際もうどうでも良い。




「僕、人を見る目だけはあるんだよ?」


「信じられません。」


「ふふっ、信じなくても良いよ。時雨ちゃんはここに入る運命だった、今はそれだけを覚えててくれればそれで良いよ。」




その悲劇的な運命を受け入れるにはまだまだ時間を要するだろう。


妙に判然としない意味深な言葉を並べた昴晴先輩は、「それにね…」と更に口を開いた。

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