第70話
幸か不幸か、私は独りぼっちで昼休みを過ごす事だけは回避できたようだ。
早起きが得意なついでに自分で作っているお弁当場を広げる。
だし巻き卵は、自画自賛ではあるが絶品なのだ。共働きで日々忙しい両親にも好評を得ているから味には保障ができる。
お箸で摘まんで口に放り込み咀嚼する。
ふわふわでほんのり出汁の効いたそれの出来栄えは、本日も完璧だ。
お父さんとお母さんも、美味しいって思ってくれると嬉しいな。
余りにも多忙を極めている両親を顔を合わせる回数は、多くて週に一回程度だけれど、決して仲が悪い訳ではない。
「時雨の弁当、綺麗だな。」
「え?」
予想外の人間からあがった賞讃に、驚嘆の声が口から転げ落ちる。
私の弁当に熱い眼差しを向けていたのは、次雲先輩だった。
「…って、ミユちゃんが言ってる。」
怖っっ。
人形の声が聞こえるのですね、心療内科の受診をお薦めしますよ。
「俺も、そう思う。」
最後にそう付け加えた次曇先輩は、ハツの串焼きを頬張っている。
見逃そうと思ったけれど見逃すわけにはいかない、つかぬ事をお聞きしますが次曇先輩、そのお昼の献立は何なのですか。
私の視線が捉えたのは、砂肝やぼんじりと思しき串焼きが収められた弁当箱。この画だけを切り取ったらまるで仕事終わりのサラリーマンだ。
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