第65話
「御機嫌よう時雨ちゃん、よく来たね。」
かつてない望まぬ大注目を浴び、居た堪れなくなった私を拉致するかの様に攫った霰先輩に連れてこられたのは視聴覚室。
今一番見たくない教室である。
しかもその扉の先に待ち構えていたのは、へらりと口角を緩めて手を振る悪の権化であった。その名も天文昴晴。
今一番見たくない人間の顔である。
「あーあ、普通こう云う時の衣裳はもっとこう花柄がいーっぱいのワンピースじゃなーい?この映画監督本当に分かってないよねん……あ、やっほー!しーたん!」
悪の権化だけではない。スクリーンに有名子役の演技が絶賛された映画を投影して悔しそうに顔を歪めているのは、雷知先輩の他にいない。
私の名前を呼ぶ以前の台詞全てに鳥肌が立って仕方あるまい。この人がどうしてこんなにも悔しそうに顔を歪めているのかは敢えて訊かないでおこう。
それが世の為、人の為、何より私の為だ。
「……遅い、ミユちゃんが待ちくたびれてる。」
誰も待って頂きたいなどと頼んだ記憶はない。
人形の髪を小さな櫛で梳いている大男が、私に数秒だけ視線を寄越した。
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