第64話
一体何事であるか。
何やら事件でも起きたのか。
そんな疑念を抱いたまま、怪訝な顔で廊下を一瞥した私の目は今世紀最大級に見開いた。
その場にあるありとあらゆる視線を奪っている人物が、窓枠に頬杖を突いてこの教室を見つめている。
否、今の説明では語弊があるやもしれない。正確に説明すると、この私を見つめていた。
「何しているんですか、霰先輩。」
何時からそこにいたのだろうか。そしてどうして私はこの人の気配に気づかなかったのだろうか。
廊下側に最も位置している列の中の一つが私の席である。因みに、私の席から廊下までの距離は実に一メートルもない。
とどのつまり、私のすぐ目の前にその頬を緩めた美しい顔はあった。
とんでもない至近距離にも関わらず、この人の登場を一切察知しなかった己の鈍感さに私が誰よりも吃驚している。
こんな風に鈍い神経をしているから、悪党でしかない天文昴晴の詐欺の手口に引っ掛かったのだろう。
「時雨をお昼のお誘いに来た。」
「え。」
「っていうのは建前で、時雨の脚を舐めたくて来たよ。」
「先輩の為に言いますが、その本音は一生隠し通すべきです。」
ふふっ、と柔らかに顔を綻ばせた霰先輩が伸ばした手は、しっかりと私の内腿を愛撫した。
この人、早く刑務所に入ってくれないだろうか。
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