第49話

そもそも霰先輩が机の下に潜る事がなければこうはならなかったはずなのだ。


となるとやはり、天文昴晴は疫病神である。



悪霊退散!!!




「はぁ…永遠にほっぺスリスリしてたい。」




さっきまでの柄の悪さは何処に身を潜めたのだろうか。すっかり甘ったるい表情を浮かべている霰先輩の頬擦りが止まらない。


しかも私の思い違いでなければ、徐々に鼻息も荒くなっている。



いよいよ本物の変態だ。




「昴晴、もう美脚切り抜き全集なんていらない。僕は運命の脚と出逢ったもん。」


「うんうん、おっけーい。」



ふざけるな、快く承るな。私の身にもなってみろ。


青く染められた毛先が、膝に触れて擽ったい。心は羞恥心で擽ったい。どういう類の罰なのだこれは。



霰先輩が頬を紅潮させて、長い睫毛の影を私の太腿に落とす。


それから間を空けて、澄んだ瞳でこちらを見上げた。





「時雨の脚、舐めたい。」


「絶対に駄目です。」




度肝を抜く発言に耐えられなくなった私は立ち上がり霰先輩を振り払う。




「待って僕のお嫁さん!!!」




勝手に婚姻の契りを交わさないで頂きたい。


間髪入れずに追いかけて来る相手をすぐに視界が捉えた。



全身が具合の悪い寒気に冒されたまま、私は人生で一番の力を振り絞って走った。




「時雨待って。」


「嫌です。」




一直線に視聴覚室の扉へと駆け寄り閉まっていたそれを破る。

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