第40話

お上品な挨拶を発した中性的な声に釣られ、視線が扉へと伸びる。


私の双眸が捕獲したのは、これまた大層麗しい男の姿だった。



昴晴先輩とも雷知先輩とも違う美貌。



身体の線が細く、とにかく華奢だ。しかしながら顔がけている訳ではない。


鶯舌おうぜつから連想される容姿以上に美しいそれを有しているその人と私の視線が交差した。




「女の子だ。」


「初めまして。」




首を傾げながら横髪を耳に掛ける仕草を相手が見せたかと思えば、傷みのない黒髪の奥から現れた深い蒼色に染まった髪の毛。




「あらりんのインナーカラーって見事だよねぇ。」




まさに私が胸中で思っていた事を後ろから代弁してくれた雷知先輩の言葉で、この人が噂のあらりんだと知る。




「時雨。」


「は、はい!?」


「あ、やっぱり君が時雨なんだ。」


「そ、そ、そうです。」




どうしたものか。名前を呼ばれただけで心臓が無意識に跳ねてしまう。





「昴晴から話は聞いてる。性吐会にようこそ時雨。」


「……。」




歓迎されているけれど、忘れてはならない。私は詐欺に遭って入会させられただけである。




「僕の紹介はまだされてない?」


「はい。」


「じゃあ自己紹介。」


「お願いします。」


藤花 霰ふじはな あられ。霰で良いよ。…あ、あと知ってると思うけど雑誌で発掘した美脚と美尻を切り取ってコレクションするのが趣味。」




まるで常識でしょう?と言わんばかりの霰先輩の表情に、やはりここにまともな人間がいない事を再確認した。

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