第32話

私からの返答を待っている。


笑顔を湛えたまま視線を逸らさない雷知先輩の表情は、そう訴えている様だった。



何か言わねばならない雰囲気である。


正直に胸の内を打ち明けるのならば「雷知先輩と昴晴先輩を見ていると、顔の良い人は幸運だなとつくづく思います」ってところだが、それをそのまま言う程私も愚かではない。



どう誤魔化そうかと思案に思案を重ねた結果…。




「えっと…雷知先輩、煙草はいけませんよ。」




生徒指導部の教師みたいな言葉しか出てきてはくれなかった。


おのれ動きの鈍い私の脳みそめ。




「え~それを言うなら、しーたんだっていけない子じゃない?」


「え、ぇえ?」




私がいけない子だと?


予想だにしていなかった雷知先輩からの投球に、私は慌てふためいた。



確かに怠惰に満ちた生き方を愛している私は優等生ではないだろうけれど、いけない子カテゴリに入る筋合いもない。


少なくとも雷知先輩よりは優等生な自信がある。



不意打ちを食らい、困惑する私を眺めながら正面にいる美しい彼は身を乗り出してそっと私の耳元に唇を寄せた。

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