第53話

星利side2

「あ-、面白かった!ザクラちゃんに翻弄されている星利」

そう言って姉貴は、笑いすぎて出た涙を拭う。

「うるせえ」

春風は床を拭き終えると、修行だと言ってリビングからいなくなった。

ずっと様子を見ていた姉貴は、春風がいなくなった瞬間爆笑しはじめた。

「・・・なあ、水神。

春風の髪、なんとかできねえの?」

「え、どういうこと?」

台所で洗い物をしていた水神がひょっこっと顔を出す。

「切り方まずかった?」

「いや、そうじゃないんだけど・・・」

水神が首を傾げる。

「ザクラちゃんの首の後ろ、丸見えだからなんとかして欲しいってさ」

本を読んでいた北斗がさらっと言う。

「北斗!てめえ!」

じろりと北斗を見ると、北斗は読書時にしかしない眼鏡の奥で笑っていた。

「あ-、なるほど。そういうことね」

合点したらしく、水神はポンと手を叩く。

「つまり、目のやり場に困ると?」

「・・・そういうことっす」

顔が熱い。手を団扇のようにパタパタと扇ぐ。

「なに笑ってんだよ」

ふと見れば、仲間たちがニヤニヤと笑っていた。

「いや-、星利って意外と純粋だなと思って」

「・・・うるせえよ」

「でもさ、ザクラちゃん今までだってポニーテ-ルをしていたわよ?

首の後ろ見えていたっちゃあ見えていたじゃない?

なんでショ-トカットにして首の後ろが丸見えになったら照れるの?」

「そ、それは・・・」

言ったら何かを失う、そんな気がした。

同じ男である北斗をちらりと見て、助けを求める。

「・・・ただ単に丸見えになったからだよな?

それに誰もがびっくりするよ。

ロングからあんな短髪になれば、見慣れなさすぎて照れるよ」

---ああ、ありがとう!北斗!

本当は、『白い首が丸見えで無防備すぎて困る』と思っていたけど。

さすがは北斗。さらりと当たり障りのない答えを出してくれた。

「まあ、確かにね」

「それに、ザクラちゃんは短髪も似合ってるから余計によね」

うんうん、と仲間たちは頷く。

「ま、星利くん。しばらくは大変だろうけど、慣れてください。

ザクラだって、決意を決めるためにばっさりと切ったんだから」

それを聞いて俺は現実に戻る。

「そう・・・だな」

---あいつは、世界を救う海救主で。

目の前で2回も大事な人を亡くして。

その敵への怨みも捨てなくてはならなくて。

考えて考えて、改めて海救主として世界を救う、と宣言した。

「・・・星利。

ザクラちゃんに襲いかかるんじゃないよ?」

結構なガチト-ンで姉貴が言う。

「やらねえよ!あいつは武術の達人だろ!こっちが死ぬわ!」

「あ-、そうだったわね」

「ザクラ個人でもそうですけど、ザクラのお父さんにも殺されますよ。万が一そうなったら」

「あ、そうね」

「『あ、そうね』じゃねえよ!

そもそも、好きな奴に無理やり襲いかかるようなバカな奴じゃねえよ、俺は!

好きな奴は大事にするっつうの!」

「あらま」

そう言って仲間たちは手を口にやり、ニヤニヤと笑う。

「あ」

---なんかすげえ恥ずかしいセリフを言っちまった!

「へえ-。本当に一途にザクラちゃんのことを愛してるのね」

「もう、ザクラったら幸せ者!」

「ザクラちゃんの気持ちはどうなんだろうね?」

仲間たちは期待に満ちた顔で俺を見る。

「・・・さあ?」

「・・・え?」

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