第45話

星利side2

「怪我の次は風邪か?春風」

「星利・・・」

俺の言葉に春風が振り返る。

蘭が死んでから久しぶりに見る春風は、以前の姿よりずいぶん頼りなくなっていた。

「・・・ごめん、1人にしてほしい」

あいつはこちらを向いたまま再びうつむいた。

「1人にできるかよ。見てたよ、さっきまでのお前のしでかしたことを」

その言葉に春風はびくりと背中を震わせた。

「お前のことだから自分の命は粗末にないだろうと思っていた。

だが、まさか海宝石を海に捨てようとしたなんて」

「・・・幻滅したよね」

「ああ。

世界を救う、海救主自ら海宝石をそんな風にしたんだから」

「海救主の資格なんてないよ、私には。

大事な人を守れず、あの男を憎んで世界を救う白き光だなんて作れやしない」

マルリトスから聞いた通りのようだ。

あの男を倒し、世界を救うには白き光が必要で、それは慈愛とかいう気持ちが必要で。

でも、今のこいつにはあの男を憎む気持ちしかない。

憎しみの気持ちが有る限り、白き光は生まれない。

だから、『憎しみを捨てなければならない』。

母親を殺され、弟子であり仲間を殺された。

自分のせいではないのに、自分のせいだと責めるする春風にとって、それはどれだけ辛いことか。

「なにが『世界を救う海救主』だよ!

憎しみの気持ちすら、抱いちゃダメなの!?」

春風はそう言って、声をあげて泣きはじめた。

「春風・・・」

聞いているのも辛い、悲しい声だった。

「大事な人を守れなかった、自分を殴りたいよ!!」

俺は思わず傘を投げ出し、泣きじゃくる春風を抱きしめた。

「蘭が死んだのは、お前のせいじゃない。

お前を守ろうとして動いた、あいつの意志だ」

「でも!あの時、私が動けていたら蘭は助かった!」

「・・・どちらにしろ誰かがお前を守ろうとしてた」

「そんなの・・・私はそんなこと望んでいないのに!」

「バカか!」

俺は春風から体を離し、春風と対面する。

「お前が仲間を大事にしたいように、俺らもお前が大事なんだよ!

だから何かあればお前を守る!

海救主だからじゃない!仲間だからだよ!」

そう言って春風の細い腕を強く握った。

「蘭を失った悲しみもみんな同じだ!

ウィ-ン・ウォンドに蘭の遺体を奪われた時、

俺らは何もできなかった!」

俺と春風に容赦なく雨が降り注ぐ。

「己の無力さに腹が立った。だからさ、春風」

名前を呼ばれ、春風が涙と雨でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。

「お互い強くなろうぜ。

お前は、もう二度と大事な人を失くさないように。俺はそんなお前を守れるように強くなる」

「星利・・・」

「お前が海救主ゆえに、憎しみを捨てなきゃならないなら、俺らが代わりに背負ってやるよ」

俺は再び春風を抱きしめた。

以前と比べ、少し痩せた愛しい人の細さに、どれだけの願いが背負われているのかと同情する。

これからの厳しい現実を見せつけるかのように、容赦ない雨は止まらない。

だが、そんなの屁とも思わない。

風邪をひいたって別に構わない。

こいつが独りでその中を進むというのなら。

独りで悲しい思いをするというのなら。

俺は、どこまでも一緒に行ってやるよ。

たとえ、その先が地獄だろうと。

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