第42話

「50代目!」

デッキに出たザクラは、海宝石のペンダントを首から引きちぎる。

そして、赤い石のペンダントと共に海に投げ入れようとした。

「やめろ!」

マルリトスの言葉にザクラは動きを止めた。

「おぬし、何をしているのか分かっているのか!?

赤い石はともかく、海宝石まで海に投げ入れようとしているんじゃよ!!」

マルリトスはそう言いながら、ザクラの背後に近づく。

「海宝石を狙う、あの男に奪われたらどうする!?

そうなれば、全て終わってしまうではないか!?」

ザクラは何も言わないが、その背中は震えていた。

「世界を救ってくれると、おぬしに託したたくさんの者に申し訳ないと思わんのか!?」

「・・・うっ・・・」

ザクラはそれを聞いて、デッキの上に崩れた。

「よく思い留まってくれた」

マルリトスはそう言いながらホッとする。

「・・・マルリトス、私は今、海救主であることが初めて嫌になった」

ザクラは両手を床につけてうつむいていた。

「お母さんを殺したのも、蘭を殺したのもウィ-ン・ウォンドだ。なのに。

せっかく、憎くて憎くて仕方ない奴を倒せるというのに恨みを捨てなきゃいけないだなんて!!

しかも、許すだなんて!!」

ザクラは勢いよく床を叩いた。

右手に握られた、海宝石と、赤い石のペンダントが反動で少し跳ねた。

「恨みを晴らすことができないだなんて!

こんなことなら海救主だなんてなりたくなかったよ!」

ザクラは泣き崩れた。

マルリトスの心に、ザクラの言葉と姿がぐさりと刺さった。

と、その時、空から雫が落ちてきた。

「雨か。50代目、帰るぞ」

ポツリポツリと降っていた雨はやがて、りょうを増してきた。

ザクラはマルリトスの言葉に首を横に振る。

「おぬし、病み上がりじゃろ!

また体調を崩したら、仲間たちが悲しむぞ?」

「・・・マルリトス。もう、放っておいて」

ザクラは泣き声まじりに、マルリトスに冷たく言い放った。

「・・・分かった」

ザクラの心中を察したマルリトスは、後ろ髪を引かれながらも、ザクラから離れた。

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