第5話 涙と雨

第41話

「こんばんは、50代目の海救主」

流れるようなブロンドの髪。

美しいその女性は、ザクラを夢に現れたあの人だった。

「久しぶりね、レイン」

「その名で呼ばれたのは久しぶりだのう。エア」

エア、と呼ばれたその女性は笑みを浮かべる。

「ところで・・・何故出てきた?」

少し警戒しながらマルリトスは尋ねた。

「そんなに警戒しないで。私、50代目ちゃんに言いたいことがあって現れたのよ」

「私に言いたいこと・・・?」

マルリトス同様ザクラも少し警戒している。

「50代目ちゃんも警戒しないでよ」

エアはそう言って真剣な顔になる。

「あの赤い石からここ数日の動きを見ていたわ。

あなたのお弟子さんが、あの人に殺されたことも」

「エア!」

ザクラの表情が変わったことに気づいたマルリトスは、エアを制しようとする。

「あなたは憎いことでしょう、あの人が」

「・・・当たり前じゃないですか」

鋭い目つきになったザクラはそう言って、エアを見る。

「そうでしょうね。でも、あの人を許してあげて欲しいの」

それを聞いて、ザクラの目がますます鋭くなった。

「許してあげて欲しいですって!?

私は、あの男に母親を、そして今回は仲間を殺されたんですよ!?」

そう言うザクラの体から、黒い光が滲み始める。

それを見て、エアは肩を落とした。

「50代目。よく聞いて?

あなたのことを云っている予言を思い出して」

「予言・・・?」

「ええ。『50人目の海救主、白き光をもちて

黒き世界を白に染める』っていう予言」

「それがなんだっていうんです?」

「今のあなたをご覧なさい。

白い光どころかドス黒い光を放っているではありませんか」

ザクラは半信半疑で手鏡を見る。

「黒い光は憎しみ、悲しみ。白き光は、慈愛と平和を望む光。

海宝石は、持ち主の気持ちに影響して力を与える。良くも悪くもね」

「・・・意味が分からないんですが」

「確かに黒い光でも勝てるかもしれないけど、それで世界を救えると思う? 憎しみに染まったその力で、たくさんの命を守れると思う?」

「・・・私にどうしろというのですか?」

「恨みを捨てて。それすら受け入れて、世界を救って」

それを聞いてザクラはわなわなと震えた。

「あなたならできるわ」

エアは励ますように言う。

だが、そんなエアの言葉がザクラの逆鱗に触れた。

「何も知らないくせに!」

ザクラは赤い石を掴んだ。

同時に、エアの姿は消える。

「50代目!」

「何も知らないくせに・・・『恨みを捨てろ』だなんて言うな!」

ザクラはそう言って、部屋を飛び出した。

「50代目!」

マルリトスは慌てて追いかける。

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