第36話

ザクラside

何度も何度もあの瞬間が頭に浮かぶ。

蘭が斬られたあの瞬間が。

私を庇った蘭が息絶えた瞬間が。

『ティアラは渡さない!』

---あの時、何とかして立ち上がれば、蘭は死なずに済んだのだろうか。

なんで、陣を自分のまわりに張らなかったんだろう。

そうすれば、斬られたとしても私だけで、蘭が飛び出すこともなかった。

「・・・ああ・・・」

『こうすれば助かった』『ああすれば良かった』と、次から次へと後悔ばかりが溢れていく。

だけど、もう『蘭を失った現在』は変えられない。

溢れる後悔と自責の思いが止まらない。

だけど、どんなにどんなに溢れても、やはり今は変わらなくて虚しくなる。

「・・・くっ・・・」

虚しくて、やるせなくて。

何度目かの涙が溢れていく。

涙は溢れて、布団のシ-ツにシミを作っていく。

「50代目。いつか脱水症状出るぞ」

いつの間にか、マルリトスが側にいた。

「・・・マルリトス・・・いたの?」

涙を拭う。

ほい、とマルリトスは口に唐草模様の包みを咥え、私に手渡した。

「水だ。あと、食べ物だ」

包みの中身は、ペットボトルに入った水とおにぎりだった。

だが、水はともかくおにぎりを食べられる気がしない。

「マルリトス、水だけでいい」

「え、要らんのか?」

うん、とうなずく。

「・・・食欲が湧かないのか?」

「うん・・・」

「・・・そうか。わかった」

マルリトスはそれ以上追及してこなかった。

はい、とマルリトスの背中におにぎりを入れた、唐草模様の包みを背負わせる。

「・・・鈴にごめんって言っておいてくれるかな?」

「わかった」

マルリトスはそう言って部屋を出て行った。

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