第28話

それから、すっかり塞ぎ込んでしまったザクラは自室に戻らず、北斗に頼んで操縦室で一夜を過ごした。

「50代目。せめて着替えをせぬか?」

翌朝、共に一夜を過ごしたマルリトスが心配そうに見上げる。

「うん・・・」

ザクラは小さな声で返事をし、操縦室の扉を開けた。

「まぶしい・・・」

空にはまぶしい太陽が昇り、空は晴れ渡っている。

何もなければいい天気だと笑顔になるのだが、ザクラは笑顔になれなかった。

「ほら、行くぞ。50代目」

ぼうっと立ち尽くすザクラをマルリトスは呼ぶ。

「うん」

ザクラは虚ろな表情のまま、操縦室の戸を閉め、デッキの上に出た。

「50代目。今日の修行はなしにしよう。おぬしのモチベーションが最悪だからの。」

「うん、ありがとう」

言っていることとは裏腹にザクラはにこりとも笑わない。

---イルカの姫が死んだのは、50代目のせいではない。

でもこいつは、それを守れなかったことに対してそうなっている。

さて、立ち直らせるにはどうしたらいいものか・・・。

マルリトスは眉間にシワを寄せた。

「あ、忘れものをした」

自室に着く直前、ザクラが立ち止まる。

「もう、シャキッとせい」

マルリトスはそう言ってため息をつく。

「取ってくる」

「ああ」

ザクラはそう言って、デッキの上を歩き、操縦室から忘れものを取りに行った。

忘れものを取ったザクラは操縦室の扉を閉め、自室前にいるマルリトスのもとへ歩いて行く。

と、その時。ザクラの背後の海原から大きな波が上がった。

波はザクラを飲み込もうとする。

「50代目!」

マルリトスに呼ばれたザクラは後ろを振り返る。

状況を理解したザクラは、飲み込まれるところを間一髪逃げ切った。

「危なっ!」

「大丈夫か、50代目!」

マルリトスがザクラに駆け寄る。

「う、うん・・・」

危険な目に遭ったからか、ザクラの表情がきりりとしたものに変わる。

「な、なんだ!?」

元に戻ったとはいえ、船が大きく傾いたため、何事かと他の仲間たちが現れた。

仲間たちの声を聞きながら、ザクラはぞわりと背中に悪寒を感じた。

---この嫌な気配・・・、もしかして!?

一度肌で感じただけで分かるくらい不気味な気配。

過去で一度だけ対面した相手を思い出し、ザクラの表情はますます厳しくなっていく。

ふと横を見れば、マルリトスは全身の毛を逆立てて、ザクラと同じ方向を向いていた。

「マルリトス、あんた、もしかして私と同じこと考えている?」

「ああ」

ザクラはそれを聞いて秘剣を構える。

仲間たちはその様子を見て、ままならぬ状況にあることを感じた。

「やれやれ。海の中は大変だな」

声と同時にその気配が濃くなる。

ザクラの秘剣を握る手に力が入る。

すると、船に上がった波の残り水から1人の男が現れた。

「お前は・・・!!」

マルリトスが毛を逆立てながら、グルルと声を上げる。

「久しぶりだな、『50人目の海救主』」

相変わらず『こいつはやばい』と思わせる笑みをした男にザクラは、ギリリと歯をくいしばった。

「何の用だ!ウィ-ン・ウォンド!!」

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