第21話

ザクラside

「ふざけるな!」

自分で言った寝言にびっくりして目を覚ました。

「ご、50代目・・・?」

相当なボリュームで言っていたらしく、マルリトスがびっくりした顔をしていた。

「あ-、夢か」

ホッとして頭をかいた。

時計を見ると、深夜2時。思わずため息が出る。

「大丈夫か、50代目。また変な夢か?」

心配したマルリトスが近くまでやってくる。

「変な夢といえば、変な夢だけど」

「意味わからんが?」

「---あんたの飼い主らしき人が夢に出てきた」

「なに?!」

「わけわからないことを言っていたよ。『あの人への恨みを捨てろ』って」

夢を思い出し、乾いた笑いが出る。

「恨みを捨てろだなんて、今更できると思う?

目の前で母を殺され、今まで恨みを抱いてきた私に、そんなことをしろだなんて?!」

私を庇ったためとはいい、あいつに母を殺された。

今でもその情景は鮮明に思い出せる。

忘れたくても忘れられない。

「落ちつけ、50代目」

「旅先で、『世界を救ってほしい』という声をたくさん聞いた。背負ってきた。

でも、私の根っこにあるのはあいつへの恨みだ。

いくらあいつが、愛する人への執着心から今に至ったとしても許せない」

私はぎゅっと布団を握る。

「50代目・・・」

「マルリトス、私はどうしたらいいんだろう」

連日みた、ウィ-ン・ウォンドの過去らしき夢。そして、今みた夢。

ここ数日、飛び起きたことも多いせいか、私は混乱していた。

「・・・そうじゃな・・・。とりあえず寝ろ?

とりあえずではないが、今は1番それが優先的じゃ」

「嫌だよ。また変な夢をみそうで」

そう呟いた私にマルリトスは、仕方なさそうにため息をついた。

「仕方ないのう。これ、50代目。布団をめくれ」

「え?」

言われるがままに布団をめくると、マルリトスが布団の中に入ってきた。

「わしが側で寝ていてやる。嫌なことがあれば抱きしめてもいい。じゃが、力加減はしてくれよ」

「マルリトス・・・」

マルリトスの優しさに涙が出そうになる。だけど、必死に耐える。

「今宵限りこうしておいてやる。たまには甘えるのも良かろう?」

「・・・ありがとう」

感極まって、マルリトスを抱きしめた。

もちろん、ちゃんと力を加減して。

マルリトスの柔らかい毛並みと、優しい心に触れ、次第にまぶたか重くなっていく。

ああ、もう何も考えられない。

寝たとしてもきっと何も変わらないだろう。

でも、今は相棒の優しさに甘えよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る