第58話

何が入っているのだろう、とザクラは木箱を見つめる。

と、その時、鳩時計が鳴った。

ザクラはその音にハッと我に返り、時計を見る。

時刻は、15時。鈴たちが帰ってこい、と言った時刻だった。

「あ、やばい!鈴たちに怒られる!」

ザクラはガバッと椅子から立ち上がり、マルリトスもあわてはじめる。

「お帰りになられるんですか?」

「すいません、人を待たせているもので!あの!これ、お代です!」

ザクラはカバンを漁り、金貨を数枚手渡した。

「いやいや、大丈夫ですよ」

「だって、お店を閉めるところを無理やり入らせていただいて。コ-ヒ-とホットミルクまでいただいて」

「私は今日、菫から預かっていたものをあなたに渡せました。それだけで充分です。生きている間にあなたに渡せて良かった」

「店主さん・・・」

「50代目、行くぞ」

マルリトスが目でザクラにそう伝える。

「分かった。」

ザクラはくるりと店の扉の前で、白髭の男性に頭を下げた。

「ありがとうございました!」

そう言って、ザクラは『ハイム』から去っていった。

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