第55話
そんな話をしながら、ザクラたちは目的地にたどり着いた。
年季を感じる外観の建物の正面には、これまた年季を感じる看板が飾られており、確かに『ハイム』と刻まれていた。
「ここだね」
「ああ」
「入ってみる?」
「とりあえず、わしは海宝石の中から見守るぞ」
「え」
「『え』じゃない。飲食店ってペット禁止だろう」
「そりゃそうだけど・・・。ペットのくくりでいいの、あんた」
「それが1番近くないか?」
「そ、そうね」
と、その時。店の中から誰かが出てきて、お店の表の方『open』を『close』に変えた。
「え、もう閉めちゃうの!?」
まだ昼だというのに、店を閉めるとは。飲食店としてどうなんだ、とザクラたちは思った。
「あ、あの!」
ザクラは慌てて茶髪の店員らしき男性に呼び止めた。
「もう、お店閉めちゃうんですか!?」
呼び止められた男性は怪訝そうな顔をする。
「ああ。うちは人手が足りなくてね。昼はやってないんだよ。悪いけど、他へ行ってくれ」
そう言って男性は扉を閉めようとする。
「ち、違うんです!ランチじゃなくて、このお店に用があって来たんです!」
「ランチじゃない用事?飲食以外の用事ってなんだよ」
「私、春風菫の娘です!母の手紙にここのことが書いてあって、あるものを取りに行けって!」
「春風菫?知らねえな」
男性はそう言って、扉を閉めようとする。
が、ザクラはガシッと外側のドアノブを握り、閉めさせないようにする。
「く、くそ!強い!」
男性は力を入れ、扉を閉めようとするも、ザクラの引っ張る力に引かれ、扉はびくともしない。
そうしている間に、店の中から再び誰かがやって来た。
「おい、なにやってんじゃ」
杖をつきながら、白髭の男性が覗きこんだ。
「親父!この女の人がこの店に用があるって言って、離してくれないんだよ!」
「お前が引っ張ってもびくともしないなんて、なんて力持ちのお嬢さんなんだ」
「感心するな!なんとかしてくれ!」
「お嬢さん、お店は終わりだ。またきておくれ」
「あの!私、春風菫の娘です!母の手紙にこのお店に、預けものをしているとかいてあって!その、預かりものを取りにきたんです!」
それを聞いて、老人は目を見開いた。
「菫の娘さん!?」
「はい!春風ザクラといいます!」
「なんてこった!菫の娘さんがいらっしゃるとは!
ジャン、中にお嬢さんを入れて差し上げなさい」
「え?!でも、店は終わりじゃ?」
「店の客人じゃない。私個人の客人じゃ。それも大事な大事な客人じゃ」
「わ、わかったよ」
ジャンと呼ばれた青年は、ザクラを店の中に入れた。
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