第37話

マルリトスがザクラたちの前に現れてから数日が経った。

「おい、大丈夫か、春風」

昼飯後、午前中にマルリトスからこってり修行をつけられたザクラは、ソファ-の上でうつ伏せになっていた。

「大丈夫に見える?」

そう言って上げた顔には疲労の色が見える。

「・・・見えん」

ソファ-の向かいで本のページをめくっていた星利は本を閉じる。

「でしょうね。ここまで疲れたのは久しぶりかもしれない」

「よし、なら今夜のおかずは体力が回復するものにするわ」

台所で洗い物をしていた鈴がそう言ってザクラを慰める。

「くっそ-、あの猫、ふざけんじゃ・・・ないよ・・・」

そこでパタリとザクラは言葉を発しなくなった。

「ん?」

それを聞いていた星利と鈴は、ソファ-に近づきザクラの様子を伺う。

「あ-、寝てるわ」

ザクラはソファ-でうつ伏せのまま、寝息を立てていた。

「今までザクラって、夜も修行していたんでしょう?」

「ああ」

「マルリトス曰く、今は夜の修行はなしで寝かせているらしいわね。夜ぐっすり寝ているのに昼もがっつり寝るなんて」

「どんだけ大変な修行だっつうのって話だよな」

「ええ。あ、私ザクラにかけるもの持ってくるわ」

「あ、ああ」

そう言ってパタパタと鈴はリビングを出て行く。パタンという戸の閉まる音にもザクラは目を覚まさない。

「あ-あ、バカみたいに幸せそうな寝顔しやがって」

ニヤニヤと笑みを浮かべた寝顔をしているザクラを見て、星利は思わずザクラの頭に手を伸ばした。

「大変だろうけど、俺らもいるからな」

そう言って星利はザクラの頭を優しく撫でた。星利は愛おしげにザクラを見つめている。

「ただいま---」

鈴が戻ってきて、星利は慌ててザクラから離れた。

「あら?ごめん、お邪魔した?」

鈴は口に手を出し、ふふふと笑う。

「だ、大丈夫!」

星利はそう言うが、顔は真っ赤である。

「そう?」

鈴はまだニヤニヤしながらザクラにタオルケットをかける。ザクラは身じろぎして唸った。

「で、どう?あれから進展あった?銀の人魚だっけ?それからは何ともなさそうだけど」

「・・・その言葉そのままだよ。本当に何も変わってない。銀の人魚のことがわかる前までと」

「そうね。外野から見ていてもそれは思う」

「俺の勇気は一体・・・」

星利はそう言ってうつむく。

「まぁ、普通はちょっとは、意識したりするんだけど。相手がザクラだからねぇ。船内きっての鈍感ちゃんだから。まぁ今は、それ以外にも頭がいっぱいいっぱいなんだろうけど」

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