第30話

顔を強張らせたまま、星利は絞り出すように言葉をつなげていく。

「何を?」

「銀の人魚のことだよ」

「ああ、話したね」

ザクラは再びマグカップに口をつける。

「で、その人魚が見つかったんだよ」

「え!?良かったね!」

ザクラはまるで自分のことのように嬉しそうに笑う。星利は久しぶりにザクラの笑顔を見た気がして心が温かくなる。

「どこにいるの?前も言ったけど、私も会いたいな」

会いたいと言うザクラに星利は顔を曇らせる。

---会いたいも何も、銀の人魚はお前じゃないか。

「星利?」

「春風。俺は今正直戸惑っている」

「戸惑っている?なんで?ずっと探していた銀の人魚を見つけたというのに。嬉しくないの?」

「いや、嬉しいんだよ?ただ、人魚じゃなかった。」

「人魚じゃなかったってどういうこと?あの鱗は一体なんだったの?」

「よく見てみろ。これは鱗じゃなくて、鱗に似せたスパンコールらしい」

星利はテーブルに鱗だと思っていたものを置く。

「あ、本当だ。しっかしよくできてるなぁ」

ザクラはそれをじっくりと見つめる。

「何はともあれ、その命の恩人の存在と居場所も明らかになった。思っていたより近過ぎたけどな」

「近過ぎた・・・?」

ザクラはスパンコールを返す。

「ああ。だから戸惑っているんだ」

星利はマグカップを手に取るも、その手は震えていた。ザクラはそれに気づき、気遣う表情を浮かべる。

「そんな顔をしないで大丈夫だから。」

星利はそれに気づき、これから落とす爆弾発言に備え、景気付けにマグカップを口にした。

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