第16話

休憩を終え、ザクラが再び修行に戻る。それを横目に星利はポケットから黒い小さな箱を取り出した。

星利は大切そうにその箱の蓋をあける。そこには、銀色に輝く、魚の鱗のようなものがある。星利はそれを手にとりじっと見つめた。

「ねぇ」

そこへザクラがひょっこり現れた。

「うわぁ!?」

星利は驚いて、鱗のようなものを落としそうになる。

「馬鹿野郎!びっくりするじゃないか!」

「ごめんごめん」

ザクラは手を合わせて謝る。

「あっぶねぇ。落とすところだったぜ」

星利はいそいそと鱗のようなものをしまう。

「ねぇ、かなり大切そうにしているけど、それ何?」

ザクラがタオルを首にかけ、星利の横に座る。

「これ?」

星利は黒い小さな箱を指差す。

「それしかないけど?」

「あ-、えっと」

星利はどう説明しようかと頭を巡らせる。

「あ、別に嫌だったらいいよ。気になるっちゃ気になるけど」

「いや、いいよ。見せる」

星利は黒い小さな箱を開け、鱗のようなものをザクラに見せる。

「うわぁ、きれい!」

ザクラは身を乗り出して箱を覗き込む。

「ち、近い」

星利は慌てて顔を逸らす。だが、ザクラはそれに気づいていない。

「魚の鱗?みたいだね」

「魚っちゃあ魚だけど」

「ん?どういうこと?」

「人魚だよ、銀の人魚」

星利は気まずそうに顔を掻く。

「人魚?!しかも銀の?!」

「昔な、溺れていたところ銀の人魚に助けられたことがあって。この鱗がその時に助けてくれた銀の人魚のものだよ」

「へぇ、ロマンチックだね」

「お前の口からロマンチックという言葉が出るとは思わなかった」

「な?!失礼な。私だってロマンチックという言葉ぐらい知ってます-」

ザクラはそう言って口を尖らす。

「私だって、あんたがそんな過去があったなんてびっくりですけど」

「俺だってびっくりだよ。まさか人魚に助けられるだなんて」

星利はそう言ってため息をつく。

「あの時は俺も小さかったし、溺れていたから礼のひとことも言えず終いだった。だから今、もしあの人魚に会えるなら礼を言いたいと思っている。ちょうど海の上で旅してるしな」

「うん」

ザクラは微笑みながらうなずく。

「なら、私もお礼言うよ。その時は」

「え?なんでお前も?」

「だってその人魚が、その時助けなければ星利は今ここにいないもの。だから私も言うよ。『星利を助けてくれてありがとうございました。お陰で私はいい仲間に出会えました』って」

それを聞いた星利は両手で顔を隠し、ため息をつく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る