第5話 すべ
第12話
日差しが降り注ぐ甲板で、ザクラは自分のかけた結界、陣の中で寝そべっていた。
''このままだと戦いの果てに海救主は命を落とすだろう''
眉間に皺を寄せながらあまりにも残酷な警告のことを考えていた。
ザクラは寝返りを打ち、水龍と戦った時のことを思う。
ー水龍の力は強く、それ以上に水龍に植えつけられていた邪気の龍は強かった。今思えば、あの時水龍が教えてくれなければ私はどうなっていたのか・・・。
''何が待っていろだ! どんだけ心配かければ気が済むんだよ!”
ーまた、みんなを心配させた。いや、水龍のことだけじゃない。あの警告に対しても心配させている。でも、どうしたらいいんだろう。
ザクラはガバっと身を起こし、頭をかく。
「何か手がかりはないものかね。」
ザクラの脳裏に、部屋に積み重なるたくさんの本の姿が浮かぶ。かつてザクラの母が遺したもので、旅に出る時に持ち込んだものだった。
ザクラが腕を組み真剣な顔をしていると、足音とグラスの揺れる音が聞こえてきた。
「お疲れ様。ザクラちゃん。」
「北斗!」
左手にはグラスの乗ったトレー、右手にはヤカンを提げた北斗がやってきた。ザクラは陣を解き立ち上がる。
「これ、鈴ちゃんから。修行するのはいいけど、まだ病み上がりなんだから無理するなってさ。」
北斗はザクラの近くに腰を下ろす。
「病み上がりって。もう大丈夫なのに。」
北斗が座ったのを見てザクラも座る。
「それだけ心配なんだよ、ザクラちゃんのこと。まぁ、俺らもだけど。」
北斗はそう言いながら2人分のグラスに麦茶を注ぐ。
「それにやっぱり体が一番大事でしょ。はい、どうぞ。」
北斗はザクラにグラスを渡す。
「ありがとう。」
もう一つのグラスを自分に引き寄せて、北斗は麦茶を飲む。
「あんなこと言われて何とかしたい気持ちは分かるよ。俺もそうだったから。」
「俺も?」
ザクラは麦茶を飲む。何をした訳ではないのに
喉は渇いていて、冷えた麦茶が喉を潤していく。
「俺の実家が代々火創主を輩出してきた家なのは知ってるよね?」
「うん。」
「俺はそこで49代目として幼い頃から、火創主になるための教育を受けてきた。ところが俺が12になってしばらくしたある日、事件が起きたんだ。突然母が、お前はこの家の血を引いていないと言い出したんだ。姉や兄、弟たちとは父が違うって。」
「え?」
「その時にはもう火創主の後継をしていたから、除外する訳にはいかなかった。でも周りの態度が急変した。柊の血を引いていない者が後継にはふさわしくないだの、その性格が気にくらないだのって。今考えれば、火創主の後継というのは家督を継ぐということでもある。それがずっと気にくわなかったんだろうね。」
「そんな・・・!」
「うちは生まれた順で継承するんじゃなく、生まれもった力を見て継承するんだ。父曰く、4人子どもがいるなかで俺が一番力があるらしい。父の血を引いていないのにね。兄弟たちはみんな俺が柊の血を引いていないと知って、これ幸いと俺を火創主の座から引きずりおろそうしてきた。俺はそうさせないために修行に熱を入れ励んできた。今のザクラちゃんみたいに。がむしゃらにやってきたからか強くなって周りも何も言わなくなった。」
北斗はグラスを傾けて2杯目の麦茶を飲む。
「そんなある日、王宮から呼び出しがかかってきた。海救主と共に旅に出ろって。父はそれに従い、俺をここへ行かせた。」
「そうだったんだ・・・。」
「王宮からの呼び出しの話があった時、周りはどう思ったのかは知らない。旅に出たからと、柊の家督と火創主の後継は俺のままで変わらないし。父もまだ生きているみたいだし、他の兄弟も父がいる限り下手に手出しはできない。」
「そっか・・・。」
「だから、俺もこの戦いで死ぬ気なんかさらさらない。ザクラちゃんも戦いの末に死ぬなんて思っちゃいない。あいつらだって、ザクラちゃんを死なせはしないよ。」
北斗の黒い目がザクラをまっすぐに見つめる。
「俺にできることがあったら言って?柊家の書物や力のことも教えられるし。」
「ありがとう。」
「俺はね、ザクラちゃん。火創主というものがあまり好きではなかったんだ。周りは柊北斗という人間として見てくれなかったし。ひどいことも言われたしされたし。でも、ザクラちゃんに会ってそうは思わなくなった。」
「え?」
「ザクラちゃんが苦しみ悩みながらも、前へ前へ進むその姿を見ていて、心から火創主として支えたいと思ったんだよ。」
「そんなこと思っていたの。」
「うん。いやー、照れるなぁ。」
「照れるのはこっちだよ。」
「でも、本気でそう思っているからね。」
「うん。ありがとう。」
その時、ザクラはあることをひらめいた。
「ねぇ北斗。さっそく頼みたいことがあるんだけど。」
「ん?」
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