第11章 八百万の神々が

第4話 祈り

第11話

「本当にもうお帰りになるんですね。」

「はい。お世話になりました。」

水龍の激闘後、倒れたザクラの回復を待つこと1ヶ月が過ぎた頃、ザクラたちは弥生国を立つことになった。

「お世話になったのはこちらの方ですよ。囚われていた娘たちを救い、暴れていた水龍を鎮めてくださって。なんとお礼を申し上げたらよいか・・・。」

朝日が差し込む座敷で、首領一家は深々と頭を下げる。

「いえ・・・。いずれは倒さないといけない相手だったので。」

ザクラはそう言って、頭を上げさせる。

ザクラはそう言いながら、最終的に倒さなくてはならないもう1人の敵のことを考えていた。

「それにしても、あれほどの力をもつ水龍が何者かに操られていたとは。」

「水龍を封じ操るなど、どんな輩などでしょう。」

水龍退治に同伴したザクラたち一行と、王子は水龍のまとう気を思い出して身を震わせた。

「分かりません。ただ、とてつもなく恐ろしい者です。一目でまずいと感じましたから。」

ザクラは真剣な顔つきでそう言う。その端正な顔には冷や汗が流れていた。

「その者に会ったことがあるのですか?!」

「一度、いや、ニ度会ったことがあります。」

「二度も?!」

「ええ。そいつこそ、私が最終的に倒さねばならない宿敵なのです。」

「そんな輩と対峙するおつもりなんですか?!」

首領一家は身を乗り出す。

「私は海救主です。世界を救うという、あの海救主です。それならば世界を荒らしている、そいつを倒さねばなりません。」

「いくら海救主様といえども・・・。」

首領はそう言いかけて、口を閉じた。

「分かりました。と言っても、私たちに止める資格などありませぬ。でも、海救主様。」

そう言うと、首領はザクラにススッと近づき両手でザクラの手を包み込んだ。

「この弥生国では言霊といい、言葉に力があると信じられております。良きことも悪いことも口から出れば力をもつ。ですので、無礼をお許しください。」

首領はザクラの手を包んだ手を額に当てた。

「どうか、海救主様がご無事でいますように。」

紡がれた祈りの言葉と共に首領の手に力が込められた。

「ご無事でいますように。」

首領の言葉に続けて、王子や姫たちも頭を下げて手を合わせた。

戦いの果てに海救主の命がどうなるか分からない。

それを知っている一行は、ただザクラの言葉を聞くしかなく。

「ありがとう・・・ございます。」

戦いの果てでも生きていてほしいと願う、首領一家にザクラは礼を言うしかできなかった。

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