6

「母上のことだって、仕方ないだろう? 僕らは仕事で外に出ていたんだ。それをいつまでも、僕らが悪いみたいにとらないでくれる? ……いいかい?何もしなかったのは、きみのほうなんだよ、薔」


 次兄の言葉に、胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。


「……っ」


「ほんっと……役に立ちもしない。考えが変わっちゃったなあ~。小さい頃はまだ可愛げがあったんじゃないの? 母上にそっくりの顔……もったいないから、殺したくなかったのに。……残念だね、薔?」


 すらりと、礼の太刀が抜かれる音がした。


「選ばせてあげる。頭を斬り落とすのがいい? それとも心臓を一突きかな? ああ、昔言ったような殺し方もあるけど?」


 ニッコリと笑うその顔は、いつもと少しも違わない。貼り付けたような笑顔だ。


 この軽薄な笑顔で語りかけられると、薔崋はいつも金縛りにあったように動けなくなる。


 薔崋の顔を眺めていた礼が、ふと思いついたように言う。


「それとも、僕を殺してみる?」


「……」


 おもちゃをみつけた子どものようだ、と薔崋は思った。


「薔崋。きみがもしも僕らを殺すことができたなら、この家から解放してあげる。誰にも追わせない。自由にさせよう」


 のどもとにつきつけられた刃が光る。


「きみの嫌う家から、きみを解放してあげるよ」


 耳元で、優しい声がする。


 ぞわぞわする。優しさのこもらない優しい声音に、頭痛さえ感じる。


 薔崋は声を振り払うように口を開いた。


「私は……っ誰も、嫌ってなどいません……!」


 絞り出すようなその声に、礼がくつくつと笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る