5
目を閉じても、瞼の裏には鮮明に蘇る。
あの日の色、声、身体の熱さ、感情のすべて。
薔崋は、頭の中で泣き叫ぶ声を振り切るようにさっと立ちあがった。
「では、私は自室へ戻ります。兄上たちもお忙しいでしょうから。お忙しいところを失礼致しました」
「あ……あ、ああ」
仁はまだ何か言いたそうに唇を震わせたが、仕方なそうに頷いた。
薔崋は立礼をとると、入室した時と同じ凜とした表情で踵を返し、へやを出た。
「……」
少し、眠りたい。張り詰めていた意識を緩める時間が少しだけ欲しい。頭が痛む。
薔崋は記憶を頼りに車庫への道を辿る。
しかし。
「薔」
車庫へ続く廊下の途中、背後から呼びとめられた。
振り返ると、そこには次兄・礼羽が立っていた。
「礼、兄上……」
薔崋は無意識に息を呑んだ。ぞわりと、不快な感覚で肌が粟立つのがわかった。
次兄はニコッと笑うと、つかつか歩み寄り、
「っう……」
妹の髪を無遠慮につかんで、その顔をひきよせた。ぎゅうっと皮膚を引っ張られ、薔崋の顔が思いっきり歪んだ。
「あ、あにう……痛……」
痛みに歪む妹の顔を、次兄は怒気を孕んだ瞳でのぞきこんだ。
「生意気な態度とってんじゃないよ? あれじゃあまるで、仁兄上が悪いみたいじゃない。ほんときみって、使えないね。下っ端の方がまだいい」
「痛……れ、い……」
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