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妹は不安そうにこちらを見つめ返してくるばかりで、ぎゅっと唇をむすんだまま動かない。
長い沈黙が落ちて、やがて長兄は少し困ったように眉根を寄せた。
「……では、七年、どんな暮らしをしていたかをきかせてくれ」
すると、不安げに双眸を揺らしていた妹は、ふっと目を細めた。
「……お珍しいことも、ありますね。殺した夫婦のことをお気にかけられるのですか?」
責めるような感情が滲む声だった。
「……何?」
「違いましたか? あの方ならそうするかと思っていましたが」
「……」
長兄はわずかに顔をゆがめて、一度唇を引き結んだあと、頷く。
「……いや、そうだな、父上なら、そうなさる」
そう言って、再び表情を消す。
「お前は、少年として暮らしていたのだったな」
「はい」
「名も、もらったのだろう? ……薔崋というのは女の名だからな」
「はい」
「何という」
「凡人の名ですので、兄上に差し出すまでもありません」
「……」
凛とした表情でまっすぐにこちらを見つめてくる妹を、長兄は見つめ返した。
「……お前は、強くなったな」
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