3

「……」


 妹の表情には、悲しさも不安も怒りも憎しみも浮かんでいない。押し殺しているのか、隠しているのか、それすらわからない。


 仁はぽつりと、


「……幸せ、だったか?」


少し躊躇うように、そう訊いた。


 薔崋がほんのわずか、顔をしかめたのがわかった。


「この七年、幸せだったか?」


「……」


 妹はわずかな沈黙の後、苦笑のような笑みをうかべた。


「幸せでした」


「……」


 長兄は黙り込んだ。


 なぜか拳をふるわせ、しばらくの沈黙ののち絞り出すように、


「……母上が、お隠れになった日……」


「……」


 妹の目が凍てつくような冷気をはらんだ。


「お前は……ひとりきりで、ずっと……」


「……」


 薔崋はゆっくりと目をふせた。






『ははうえ! ははうえぇ! いやだっ、ははうえっぇぇぇー!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る