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 修瓏有李は書庫にいた。



 机の上に分厚い書物を何冊も積み上げ、ものすごいはやさで読み進めていく。


「……」


 有李は、昔、薔崋がこの邸にいたころに、彼女を何度も見かけていた。


 あの幼い姫は、刀を佩いたままこの書庫の隅の方で床にすわりこみ、むさぼるように本を読んでいた。


 髪も乱れ、着物も汚れ、いつも薄汚れた格好をしていたその少女が、自分より九つも年下の本家の末子だと知ったのは、最初に彼女を見かけてからしばらく後のことだった。


 有李は修瓏に所属していることもあって、本を読んだり知識を吸収したりするのが得意だった。それ故に書庫への出入りも頻繁だった。


 聞いたところによると、あの少女は六歳だったらしい。


 それなのに彼女は、自分が読んでいるのと同等、あるいはそれよりも難解な書物を読み漁っていた。


その時は単純に驚いたのだが、あとから考えてみれば、彼女はただ単に、難しさや簡単さなど考えず、端の方から順に開いているだけのようだった気もする。


 有李が書庫にいると少女はどこからともなくあらわれ、また、有李が書庫に入るともうすでにポツンとすわっていたりした。

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