5

 薔崋は顔をあげて、冷え切った目で有李を見つめた。


「助けはしない。死ぬのも生きるのもお前の勝手。お前の強さ次第。どんなことになろうが構わない。ただし、仁兄上の邪魔をするなら、その場でぶち殺す。彼らが思うのはそれだけ」


 有李は目を瞬く。


「……血の近い相手にそこまで思うのか?」


「あなたは知らないだけです。これは、私が七歳の時に、礼兄上に言われた言葉です」


「……」


「あなたの目に、あの三人の兄と忌々しいあの男がどう映っているかは知りませんけれど」


 薔崋は自嘲するような笑みをうかべた。


「あの男は、私を殺したくてたまらないのです。末子で女であるにもかかわらず、長男をさしおいて一目置かれる私を。それがどんな話の種から生まれた話題性だったとしても。……礼兄上は特に、私を許さないでしょう」


 長兄を敬い、したっている次兄は、末子をうとんでいる。


 そして、それはも同じだ。


「……なんか、そんなにしがらみがすごいもんなのか、本家って」


 有李は戸惑いを隠さない表情で小さく言った。


 薔崋は小さく首を横に振る。


「本家だけじゃない。門下にも、私を殺したがっている者は山ほどいる。邪魔な末子。一姫。女のくせに。……母上を殺した私を」


「え?」


「兄たちは母上が大好きだった。優しい母上はこんな私にも愛をくださった。深い深い愛。私も母上を愛していた。けれど愛ゆえに、母上を殺したのは、私」


 薔崋は冷やかな感情のない声で言うと、くるりと踵をかえした。


「私はいずれ、殺されるか、殺すか、どちらかの選択をすることになるでしょう。その時何を選んだとしても、それはきっと、母上を殺した私に対する、それが報いなのだと思います」


 そんなことを、呟いた。








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