13
「なにを馬鹿なことを。お前たちも、九つの頃同じようなことをしただろう」
わずかに呆れの色を含むその声に、次兄は肩をすくめた。
「まー、したけどね?」
仁は頭を下げたままの妹をまっすぐに見つめて、念を押すように言う。
「薔、このへやを出たらすぐだ。一日、生き延びてみせろ」
「仰せのままに。……失礼致します」
下げた頭をさらに深く下げると、優雅な物腰で立ち上がり、薔崋は最後まで礼を欠くことなくへやを出た。
張り詰めて身体にまとわりついていたへやの空気から解放されると、自分の手のひらがわずかに汗ばんでいたことに気づく。
「……ふっ」
短く小さなため息。
薔崋は自嘲するように、冷やかな笑みを浮かべた。
『……――に、うえ……しん、あにうえ……』
ここにいた頃の記憶。薔崋は小さな体で邸の中を駆けまわり、泣きながら母を探した。
どれだけ探しても母が見つからなかった時、一番下の兄の名前を呼んだことがあった。
『どうした、薔』
『あ、あにうえぇ……は、ははうえが、い、いません……』
『そうか』
三番目の兄は、泣きそうな妹をみてわずかに眉を下げたものの、迷うように言葉を紡いだ。
『……薔、もう少し探してごらん? それでもみつからなければ、もう一度おいで』
一番歳の近い兄にそう言われ、薔崋は素直に頷いて、再び邸を駆けまわった。
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