11

「ほら、もっと近くにおいで。顔を見せて。……ああ、やっぱり薔だ。なつかしいね」


 にこにこしながら妹の顔を覗き込む礼に、


「礼」


 鋭い刃のように、冷たい声が投げられた。


「少し黙っていろ。うるさい」


 自分の言動が長兄を苛つかせているのは明らかなのに、次兄はへらへらと笑っている。


「あれ、兄上。ご機嫌ななめ? 妹の帰還なのに」


「お前は浮かれすぎなんだ」


 弟を冷ややかに一瞥した後、仁は妹に向き直った。


「……薔。よく戻った。おかえり」


「はい」


「着いて早々で悪いが、お前にひとつ話がある。きくか?」


 話という単語に、薔崋はぴくりと眉を動かした。


「……兄上の仰せのままに致します」


「そうか」


 仁は頷いた。


「お前が家を出てから、七年経つな」


 それは問いかけではなく、まるで叱責のような言葉だった。


「……はい」


 薔崋は頷いた。声が少し震えた気がした。


「その間、お前は刀を手にして使用してはいなかっただろう?」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る