10

「……修崔薔崋、ただいま戻りました」


 戸の向こうから凛と澄んだ声がして、長兄の仁はわずかに口の端をつりあげた。


「入れ」


 数秒、間をおいたのち、すっと戸が開かれる。


 顔をふせたまま入ってきた少女は、そのまま床に手をつき深々と頭を下げた。


「……久しくお目通りかないます。私の七年もの無断不在、お詫び申し上げますとともに、帰還のご挨拶を申し上げます」


 流れるような美しい所作に反して、そのかたい声は、わずかに震えているように聞こえた。


 長兄は言った。


「顔をあげろ」


「……」


 薔崋はまた、少しためらうように間をおいてから、言われたとおりに顔をあげた。


「……お久しぶりで御座います。煌仁こうじん兄上、礼羽れいう兄上、信翔しんしょう兄上」


 冷たさすら感じるほど力強い光を宿した目で兄たちを見回し、彼女はまた礼をとる。


 次兄の礼がニコニコしながら、そんな薔崋を見た。


「よく戻ったね、薔。見違えたよキレイになって。小さい頃から可愛い顔をしていたけど、やっぱりねえ……血は争えないよね。母上そっくり」


「……ありがとう、ございます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る