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「姫は、令六クンとやけに親しそうだな」


 追いかけてきた有李がそう呟いたのを聞いて、薔崋は眉間にしわを寄せて振り返った。


「親しい? あいつと? まさか。顔を知っているだけで、親しいなんてこと、天地がひっくりかえってもあり得ません」


「……ふーん」


「七歳も年上のくせに、当時八歳だった私に言い返すこともできない、本当にバカな男です」


「はあ……」


 ふと、薔崋は足をとめた。


「ここでかまいません。兄上たちの部屋は覚えていますから」


 そう告げて、また有李を置いて行ってしまう。今度は有李も追いかけなかった。


「……さすが。女という立場でこの家にいながら、八年も生き延びただけあるな。大した殺気だぜ」


 凛とした後ろ姿が見えなくなるのを見届けてから、有李はニッと笑った。


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