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「薔崋姫? 着替えたか?」


 着替えを待つ有李が手をかけるより早く、静かに戸が開いた。


「おっと。……ああ、やっぱり、あんたには似合うな」


 そう言って有李は笑ったが、薔崋はわずかに眉をひそめる。





 少年の格好をしていた薔崋のために、有李は持ってきていた着物を渡し、宿屋の一室を提供した。


 着替えて部屋から出てきた薔崋は、水浴びをして泥のついた肌を綺麗に洗っていたため、彼女本来の色白の肌が、女物の着物に妙に艶めかしく合っていた。


 長い髪の毛を有李と同じく特殊な結いひもで結いあげて花飾りと数本のひもで束ね、本家の女の正装を身にまとって現れた薔崋の顔からは、一切の感情が抜け落ちているようだった。




「男の格好の方が楽だったんですが……」


「まあ、七年も少年として暮らしてたらそう思うだろうけどさ、とりあえずちゃんとした格好しとかないと。俺が怒られる」


 そう言った有李に向かって、薔崋は冷たく一笑した。


「怒られるだけですめば、とっても運が良いですけどね?」


「……まあ、それを言われると、俺の俺に対する気遣いがまったくのムダになるわけなんだけど」

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