15

「泣きそうな顔なんてしていません」


「それは、あんたが自分の顔を見ることができないからだろ」


 有李は差し出していた手をさらにのばすと、薔崋の頬にそっと触れた。


「泣かなくていいのか?」


「どうして泣く必要がありますか?」


「……だってあんた、今日まで幸せだったんだろう」


「……」


 薔崋はうすく微笑んだ。


「私はたしかに、この七年間幸せでした。とても楽しかったし、未練がないと言えば嘘になる。けれどそれはそれで、私は絶対に逃げられるはずはないと知っていました」


「じゃあ、なんで逃げたんだよ」


 有李の言葉に、薔崋は小さく笑った。


「だって、本当に手放したくなかったんです。無駄なことでもなんでも、私がそれをどれだけ手放したくないのか、自分に言い聞かせておきたかったんです」


 薔崋は花が散るように、表情を殺した。




「私、ここで生きた毎日が大好きだったから」



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