13

 先ほど石段の下で薔崋を呼び出した青年が、いつの間にか背後からゆっくりと歩いてきていた。立ち上がる少女と、それを冷ややかに見つめるつり目がちの青年の姿を見つけ、やれやれと首を振る。


 一つにまとめた髪が、ゆらゆらと風に揺れる。


「もう逃げられないってことは、あんたが一番分かってたことだろう、姫。なんで馬鹿な真似をしたんだ。あんたらしくない」


「……」



 賢い姫。賢姫けんき


 幼いながらも様々な学問書を読破した自分に対して、一族の大人たちが口にした言葉。


「……」



 違う。


 本当は、そんなんじゃない。


 自分は賢姫なんかじゃない。


 ただ。


 自分は、ただ……。



 黙り込んだまま何も言わない薔崋に、近づいてきた青年は穏やかな口調で告げる。


「あの夫婦にはこちらで話をつけておくよ。今後一切、『姫』に戻った貴女と関わることは許さない。彼らには、貴女を連れて逃げたという前科があるから。そのつもりでいてくれ。……こんなこと、言わなくても分かってるだろうけど」


「……ええ」


 薔崋は、顔をあげた。

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