11

 薔崋はその声に覚えがあった。


 人を馬鹿にしたようなこの口調。冷めた声。


 そして、皮肉のように賢姫(けんき)と呼ぶ、その憎たらしさ。


 閉じられた記憶のフタが押し上げられる。


「……修央しゅうおう……っ、令六りょうむ……!」


 薔崋のつぶやいた名前に、男は笑ったようだった。


口元を隠していた布をスルリと外し、令六りょうむは薔崋を見下ろした。


「さすが姫。記憶力のよろしいことで」


「……何を、しに来た」


 吐き捨てるように呟いた薔崋に、彼は鼻で嗤った。


「何をしに、なんて、お前らしくない。愚問だ。本当にわからないわけじゃないだろ」


「……殺すなら、殺せば」


 薔崋は言った。


 口ではそう言ったが、令六にはそれができないことを薔崋は知っていた。


 鋭く射抜いてくる薔崋を見て、令六はますますわらった。


「殺す? バカか、お前は。挑発のつもりか? 殺すわけないだろ。お前は、俺たちに大人しく連れて行かれればいいんだよ」


「……」


「生きていれば手段は選ばなくていいって話だが……」


 令六は値踏みするように薔崋をながめる。

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